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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

と七十郎が云った、「思いとまるから放してくれ」

「御容赦を願います」と靱負が泣きながら云い、すると、奥から出て来ていた家従たち二人が、七十郎に繩をかけようとした。

「なにをする」と七十郎が喚いた。

手足を押えていた六人が、いっそう強く七十郎を押え込み、奥山出雲が「早く」とせきたてた。このときは、采女も四人の家従に抱きとめられていたし、給主の者が二人、家従たちの指揮をするように、このありさまを見まもっているのが、七十郎の眼についた。

給主は藩から付けられた監察官のようなものである。万事終った、と七十郎は思った。たとえここを切りぬけても、すぐに仙台へ知らされるであろう、とうてい一ノ関を刺すことはできない。こう思うと七十郎は、全身から力のぬけてゆくのを感じた。

「おれも伊東七十郎だ」と彼は云った、「みれんなまねはしないから繩はよせ」

「かけろ、早くかけろ」と奥山出雲が喚いた。

鷺坂靱負が泣きながら詫び、二人の家従は七十郎を縛った。腰かけた姿勢だし、六人に押えられているので、どうすることもできなかった。繩は七十郎の首から腕へまわされ、両手をうしろへ緊めあげて、さらに両の足をぎりぎり巻きに縛った。