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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

うんぬんということばと共に、七十郎の口からじかに聞くような、いかにも彼らしく、軒昂たる意気が感じられ、それが甲斐の圧倒され、ふさがれた気持に、風を吹きいれたようであった。

「平六に風呂をやったか」と甲斐が庭を見たまま云った。惣左衛門は、いま食事をしている、と答えた。風呂をつかわせて、食事をさせている、まもなく此処へ来るだろう、と云った。

「七十郎どのが死罪になりましたそうで」

「彼らしく死んだようだ」

「平六から聞いたのですが」と惣左衛門が、感動した声で云った、「刑場に坐りましたとき、――人の首が前に落ちるときは、躯もまた前に倒れるという、だが自分は仰向けに倒れるだろう」

甲斐が静かに振向いた。

「自分は仰向けに倒れるだろう」と惣左衛門は続けた、「もし仰向けに倒れたら、自分に神霊があると知るがよい、三年のうちに一ノ関どのを亡ぼしてみせる、と申され、首が前に落ちましたとき、右の足を踏みだして、申されたとおり仰向けに倒れた、ということでございます」

「――ほかのようにはできなかったのだな」と甲斐は呟くように云った。

惣左衛門が、はあ、と訝しそうに甲斐を見た。甲斐は穏やかに眼をそらし、いや、とゆっくり片方の手を動かした。