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じゅいんざっき
樹蔭雑記
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,566 字 · 10 页
蝋燭立てと、ソッケットをうまく利用して感じのいいスタンドを作ってくれたのも彼である。彼女は、光る鋲でとめられた垂布の、深い皺の間々に、額に汗を掻いて、太い釘を打ち込む彼の白い腕を見る事が出来た。彼女は、今、彼方の部屋で、広い寝台の上に安眠して居るだろう彼の様子を心に描いて見た。
母の書を思い遣る時、自ずから、彼女の胸を満たす、無限に静穏な感謝が、鎮まった夜の空気に幽にも揺曳して、神の眠りに入った額へ、唇へ漂って行きそうな心持がした。
愛する者よ、我が愛するものよ、
斯う呼ぶ時、自分は彼という一つの明かな形象を透して、限りない尊び畏るべき人々と、いたわり憐むべき人々との心へ、自分の魂が拡がるのを感じる。
彼への深い信は、魂の愛は、万人へのよりよき心の共鳴を教える。
真の愛に跪拝するものが、どうして、不死の霊魂の栄を見ないで居られよう。
又如何うして、あらゆる幸福から虐げ追われた不幸な人々の魂の吐息に耳を傾けずに居られよう。
今、此の静安な夜の空の下に、深く眠る幸福な人々よ、
又、終夜泣きぬれて、宿命の不幸に歎く人々よ、
卿等総ての上に福祉あれ!