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じゅいんざっき

樹蔭雑記

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,566 字 · 10 页

青空文庫

彼女は、優しい涙にぬれた感動をもって、醒めた、居睡った無数の生霊の上に、頭を垂れたのである。

けれども、此の稍々せんちめんたるな人が深夜、人気ない部屋に在って思う、こんな感動は、暫くすると、その感動を静かに見守る何物かによって、次第に其の光彩を失いかけて来た。

彼は父親のように自分を愛してくれる。

その静かな愛、鎮まった魂の凝視、何故其が自分に涙をこぼさせるのだろう。

私は、彼のセルフコントロールに、絶対の信頼と尊敬とを持って居る。

彼は私を父親のように愛し、守り、助けてくれる、其でいいのだ、そう人を私は待って居たのではないか?

其だのに、何故、私は今、此の涙ぐましい心持に深く深くひたって行くのであろう。

不満なのか? そうではないと私は返事をするだろう。

淋しいのか?――淋しいのか我魂よ、

私は、一縷のかすかな白い煙が微風にもなびかず胸の裡を、静かに静かに立ちのぼって行くような心持を味う。

其は果して淋しさというべきだろうか

静けさなのではないか、

けれども、私は、その立ちのぼる煙の末が、淡く幽かに胸をすぎるとき、滲み出る涙が、眼に映る紛物を、おぼろにかすめさることを拒むことは出来ない。