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はしのした
橋の下
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,189 字 · 25 页
「さよう、私はもと侍でございました」と老人は云った、「国許は申しかねますが、私までに八代続いた家柄だそうで、その藩主に仕えてからも四代になり、身分も上位のほうでございました」
老人は土瓶の中を見た。それから、たぎり始めた湯沸しをおろし、土瓶に注いで、二つの湯呑に茶を淹れると、茶といえるようなものではないが、もし不浄と思わなかったら飲んでもらいたい、と云ってすすめた。若侍は礼を述べて、湯呑を受取った。
「その」と若侍が云った、「こんなことを訊いては失礼かもしれないが」
老人は静かに遮った、「いや、失礼などということはありません、ごらんのとおりなりはてたありさまですから、いまさら身の恥を隠すにも及びますまい、それにまた、聞いて頂くほどの話もないのです」
若侍は茶を啜り、湯呑を両手でつかんで、老人の話しだすのを待った。老人は湯沸しを鉤に掛け、自分の湯呑を持って、大事そうに啜りながら、やや暫く黙っていた。
「さよう、じつのところ、申上げるほどの話ではない、私は四十年ほどまえに、一人の娘のために親しい友を斬って、その娘といっしょに出奔しました、つづめて云えばそれだけのことです」