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れもん

檸檬・ある心の風景 他二十編

梶井 基次郎

梶井基次郎『檸檬・ある心の風景 他二十編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:檸檬、ある心の風景、愛撫、ある崖上の感情、泥濘、闇の絵巻、冬の蠅、冬の日、闇の書、Kの昇天、筧の話、過古、器楽的幻覚、のんきな患者、路上、桜の樹の下には、雪後、城のある町にて、蒼穹、海、温泉。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 127,934 字 · 263 页

青空文庫

彼がこの土地へ来てから、こうして一緒に出歩くのは今夜がはじめてであった。若い女達と出歩く。そのことも彼の経験では、きわめて稀であった。彼はなんとなしに幸福であった。

少し我が儘なところのある彼の姉と触れ合っている態度に、少しも無理がなく、――それを器用にやっているのではなく、生地からの平和な生まれ付きでやっている。信子はそんな娘であった。

義母などの信心から、天理教様に拝んでもらえと言われると、素直に拝んでもらっている。それは指の傷だったが、そのため評判の琴も弾かないでいた。

学校の植物の標本を造っている。用事に町へ行ったついでなどに、雑草をたくさん風呂敷へ入れて帰って来る。勝子が欲しがるので勝子にも頒けてやったりなどして、独りせっせとおしをかけいる。

勝子が彼女の写真帖を引き出して来て、彼のところへ持って来た。それを極まり悪そうにもしないで、彼の聞くことを穏やかにはきはきと受け答えする。――信子はそんな好もしいところを持っていた。

今彼の前を、勝子の手を曳いて歩いている信子は、家の中で肩縫揚げのしてある衣服を着て、足をにょきにょき出している彼女とまるで違っておとなに見えた。