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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

せいぜい自重してくれたまえ。今の日本では、青年たちは、何といったって、軍からの影響を最も多く受けやすいし、そう簡単にはわれわれのいうことを受け付けないだろう。そんな場合に、あんまりあせって、塾生とにらみあいのような形になっては、友愛塾も台なしだよ。」

塾生とにらみあう。――そんなことは、次郎がこれまで夢にも考えたことのないことだった。しかし、幼年時代からの闘争心が、今でも折にふれて鼬のように顔をのぞかせる自分を省みると、今度の場合、それが全く起こり得ないことでもないような気がして胸苦しかった。

「ぼく、先生にご心配をかけないように、気をつけます。」

かれは、やっとそれだけいって、田沼先生の顔を見た。田沼先生もかれの顔をみつめて、かるくうなずいたが、その眼は、仏の眼のように静かであたたかだった。

「もう時間だね。」

と、先生は腕時計を見て立ちあがりながら、

「しかし、今度のような時に、大河のような塾生をむかえたのは、非常にしあわせだったね。多分大河はいい緩衝地帯になってくれるよ。はっはっはっ。」

次郎は笑わなかった。そして、田沼先生のあとについて広間を出ると、すぐ板木を鳴らしたが、その眼は何かを一心に考えつめているかのようであった。