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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

板木を打っていたのは、はたして大河無門だった。シャツにズボンだけしか身につけていず、足袋もはいていなかった。しかし、べつに寒そうなふうでもなく、両足をふんばり、頭から一尺ほどの高さの板木を、近眼鏡の奥から見つめて、いかにも念入りに、ゆっくりと槌をふるっていた。

次郎は、思いきりドアをあけ、

「おはようございます。」

とあいさつして、大河に近づいた。

大河は、その時、ちょうど槌をふりあげたところだったが、それを打ちおろしたあと、ちらと次郎のほうを見て、あいさつをかえした。

そして、そのまま、すこしも調子をかえないで、また槌をふるいつづけた。

「もういいでしょう。ずいぶんながいこと打ったんじゃありませんか。」

次郎が、寒そうに肩をすくめながら、言うと、

「ええ、でも、まだだれも起きた様子がないんです。」

と、大河は槌をふるいながら、こたえた。

「しかしもう眼はさましていますよ。」

「そうでしょうか。」

「きっとさましていますよ。どの室にも、眼をさましているものが、もう何人かはあるはずです。」

大河は、それでも同じ調子で打ちつづけながら、

「いつもこんなに起きないんですか。