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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

遥拝がすむと、おたがいの朝のあいさつをかわし、そのあと、もう一度静坐に入った。そして、それが三分もつづいたころ、朝倉先生は、自分も静坐瞑目のまま、おもむろにつぎのような話をした。

*

越前永平寺に奕堂という名高い和尚がいたが、ある朝、しずかに眼をとじて、鐘楼からきこえて来る鐘の音に耳をすましていた。和尚は、今朝の鐘の音には、いつもにない深いひびきがこもっているような気がしたのである。

やがて、最後のひびきが、澄みわたった空に消え入るのを待って、和尚は侍僧を呼んでたずねた。

「今朝の鐘をついたのはだれじゃな。」

「新参の小僧でございます。」

「そうか。ちょっと、たずねたいことがある。すぐ、ここに呼んでくれ。」

間もなく、侍僧に伴われて、一人のつつましやかな小僧がはいって来た。和尚は慈愛にみちた眼で、小僧を見ながらたずねた。

「ほう、お前か、今朝の鐘をついたのは。……で、どのような気持ちでついたのじゃな。」

「べつにこれと申す心得もございません。ただ定めに従いましてつきましただけで……」

と、小僧はあくまでもつつましくこたえた。

「いや、そうではあるまい。