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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
をまごつかせ、自分の不断の心の修練を無力にするのか。どうして、現在友愛塾におおいかぶさっている深刻な問題以上に、自分の心をなやますのか。女性とは、恋愛とは、いったい何だろう。それは、これまで自分が考えて来た人間生活の秩序とは、全く次元のちがった秩序に属するものだろうか。
そんなはずはない!
かれは心の中で強く否定した。しかし、否定した心そのものが、やはり、ふだんの秩序を失った心でしかなかったのである。
事務室の柱時計がゆっくり、十時をうった。次郎はかぞえるともなくその音をかぞえていたが、かぞえおわると、やにわに立ちあがった。
二人が午前中に来るとすれば、もうそろそろ来るころだ。めいった顔は見せたくない。いっそ門のそとまで出て愉快に自分のほうから迎えてやろう。あとはあたって砕けるまでのことだ。――かれは冒険とも自棄ともつかない気持ちで、自分自身をはげましたのだった。
すると、ちょうどその時、事務室に人の足音がして、仕切りの引き戸を軽くノックする音がきこえた。
「どなた?」
次郎が、いぶかりながら戸をあけると、そこには大河無門が立っていた。
「おや、外出しなかったんですか。