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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
そんな気がしみじみとするのであった。
予定の作業が全部おわったのは五時近いころだった。作業のあとは入浴の時間だった。浴室はかなり広かったので、一度に二十人ぐらいははいれた。朝倉先生も、次郎も、塾生たちと裸の皮膚をふれあい、おたがいに背中を流しあうのだった。
着物を着ている時の顔と、まる裸になった時の顔とは、まだ十分知りあわないうちは、とかく一致しにくいものである。そのため、はじめのころは、湯ぶねにひたりながら、おたがいに名前をたしかめあうというようなこともよくあった。しかし、このごろでは、もうそんなことはほとんどなくなっている。それどころか、おたがいに渾名を呼びあうことさえ、すでにはやりだしているのである。そして、その渾名の中には、入浴時のある発見や偶然のできごとを機縁にして命名されたものも少なくはなかった。たとえば「河馬」とか、「仁王」とか、「どぶ鼠」とか、「胸毛の六蔵」とか、いったようなのがそうであった。
大河無門も、入浴中に渾名をもらった一人だった。かれの眼は、近眼鏡をはずすと、いつもの光を失い、とろんとした眼になるのだったが、かれはその眼を半眼にひらき、周囲のさわがしさとはまるで無関係に、湯ぶねのすみに、黙然として首だけを出していることがよくあった。