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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
「本田さん、あなたにも来ていましたよ。お部屋にほうりこんでおきました。」
次郎は胸をどきつかせながら、自分の室にかけこんだ。しかし、そこにかれが見いだしたものは、つめたい畳の上にぴったりとくっついている一枚の葉書にすぎなかった。しかもそれは、ひろいあげて見るまでもなく恭一の手跡だったのである。文面にはこうあった。
「重田父子は、昨日曜夜の夜行で退京した。二人の在京中、一度君にも出て来てもらいたいと思っていたが、ついにその機会が見つからなかった。
君の手紙は、むろん見た。しかし、今はすべてを白紙にかえしたい。適当な機会が来るまで、僕はあのことについては沈黙する。同時に君にも沈黙してもらいたい。ただし、これは僕ら二人の間だけのことで、他に対しての発言は自由だ。
手紙を書くと、くどくなると思ったので、わざと葉書にした。以上。」
重田は道江の姓である。次郎は、読みおわると、つめたい葉書の中にこめられた兄の情熱と意志とを感じた。また、おぼろげながら、その情熱と意志との方向をも察することができた。しかし、それはすこしもかれの心を喜ばせなかった。それどころか、かれは恭一に対して一種の敵意に似たものをさえ抱きはじめていた。