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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

たいていの外来講師は、下赤塚駅から、塾で特約してあるタクシーに乗って来るのだったが、小川先生はこの村に住宅を構えているので、いつも徒歩だったのである。

次郎は、外来講師の中のだれよりも小川先生に親しみを感じていた。先生は農学博士で、日本の村落史研究の権威であり、友愛塾では、毎回その研究を背景にして、新しい農村協同社会の理想を説くのだったが、色の黒い、五分刈り無髯の、ごつごつしたその風貌は、学者というよりは、鍬をかついでいる百姓の親爺さんといったほうが適当であり、講義の調子も、その風貌にふさわしく、訥々として渋りがちだった。しかし、そうした調子の中に、理論の骨組みが力強くとおっており、それを人間の誠実さが肉付けしていて、何となく鰹節の味を思わせるものがあった。なお、田沼理事長や、朝倉塾長とは古くから親交があり、塾創立の協力者として理事会に名をつらねていたばかりでなく、この村に住んでいる関係で、自分の講義のない日でも、ひまさえあると顔を出し、夜の座談会などにも、喜んで加わるといったふうであった。そんなわけで、次郎はもうとうから、小川先生に対しては家族的な親愛感をさえ覚え、塾生たちといっしょに、その講義をきくのを楽しみにしていたのである。