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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

すると、すぐ耳のうしろで、いきなり、中食を報ずる板木の音が鳴りひびいた。

食事は、まもなくはじまった。むろん、田沼、朝倉、小川の三先生も、塾長室で話をするいとまもなく、食卓に顔をならべたのだった。塾生たちは、田沼先生が塾に顔を出すのは珍しいことではなかったので、雪をおかしてやって来たのを、べつにあやしむふうもなく、ただ親しみをこめた眼で迎えただけだった。三先生の食事中の対話も、いつもとたいして変わりはなかった。すべては平日どおりだった。

次郎の気持ちは、しかし、はじめからおわりまで、緊張そのものだった。かれの眼はたえず田沼先生のほうに注がれ、その一挙一動をも見のがさなかった。先生は、肥満型で、血圧が高かったため、酒も煙草もたしなまなかったが、その代わりに、非常な健啖家で、速度もなみはずれてはやく、それがしばしば食卓の笑い話の種になるほどだった。今日も相変わらずだったが、先生は何杯目かのお代わりを朝倉夫人によそってもらいながら、とうとう自分から笑いだして言った。

「だしぬけに飛びこんで来て、こんなに食べても、だいじょうぶですかね。」

「ええ、ええ、ご安心なすって。