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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

今の形勢では役にたたないといったほうが本当だろうね。」

「先生!」

次郎は激昂して、

「ぼくたちは、これまで、日本の破滅をくいとめるために戦って来たんじゃありませんか。」

「むろんそうだ。」

「そんなら、それに役だつ方何に少しでも努力したらどうです。」

「今は愛情を育てることだけが、ただ一つの道だ。愛情を失っては、そのほかのどんなことに成功しても何の役にも立たない。」

「愛情だって、日本が破滅したら、何の役にも立たないでしょう。」

「愛情はあらゆる運命をこえて生きる。それは破滅の悲劇にたえて行く力でもあり、破滅の後の再建を可能にする力でもあるんだ。人間の社会では、愛情だけがほんとうの力なんだよ。それさえあれば無からでも出発ができるし、反対に、それがなくては、あらゆる好条件がかえって破滅の原因にさえなるんだ。」

次郎はまた考えこんだ。首をたれ、顔色が青ざめ、眼が凍ったように光っていた。かれはその眼をそろそろとあげ、じっと朝倉先生を見つめながら、

「先生は、すると、日本の破滅はもう必至だとお考えですか。」

「必至? それはわからない。悪の勝利ということもあるのだからね。