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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
その指導の中心となったのは片平一家であるが、すでに七十歳をこしていると思われる当主九郎左衛門翁の、賢者を思わせるような風格に接し、その口から報徳社の精神と部落の歴史とをきくことができたのも、塾生たちの大きな喜びであった。
午後、杉山部落を辞し、一路バスで清水に行き、三保付近の進んだ農業経営や久能付近の苺の石垣栽培など見学し、その夜は山岡鉄舟にゆかりの深い鉄舟寺ですごすことにした。
鉄舟寺は、朝倉先生と次郎にとっては、もう親類みたようなところであった。それは第一回のときにこの地方に旅行に来て、清水青年団の肝いりで一泊して以来、たびたび厄介をかけ、住職の伊藤老師ともすっかり仲よしになっていたからである。
老師は五尺にも足りない小柄な人で、年はもう八十に近かったが、子供のようなあどけない顔をしており、心も童心そのものであった。いつも塾生たちがつくまえから、庫裡の玄関にちょこなんとすわりこみ、いかにも待ちどおしそうにしていた。そしていよいよ塾生たちの顔が見えると、
「よう来た、よう来た。さあさあ、おあがり。御堂でも庫裡でも遠慮はいらん。うちのつもりで、すきなところにゆっくりするんじゃ。