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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
世間には来賓祝辞を所望される機会が来るのを一つの楽しみにして、学校の卒業式などに臨む人も少なくはないが、それにしては人がらが少し変わりすぎている。少なくとも、それほど低俗で凡庸な人物だとは思えない。内々心配されているように、指導方針について何か文句をつけたがっているとすれば、すでに最初からがその機会だったはずである。にもかかわらず、いつも黙々として式場にのぞみ、黙々として理事長と塾長とのあいさつをきき、そして黙々として帰って行く。次郎には、それが不思議でならないのだった。怪奇な容貌がいよいよ怪奇に見え、気味わるくさえ感じられて来たのである。
しかしこの謎は、このまえの第九回の開塾式の日についに解けた。
その日、荒田老は、めずらしく式後に居残ってみんなと食事をともにした。そして食事がすんだあとも、いつになく軽妙なしゃれを飛ばしたりして、他の来賓たちと雑談をかわし、なかなか帰ろうとしなかった。で、いつもなら食後三十分もたてば引きあげるはずの他の来賓たちも、荒田老に対する気がねから、かなりながいこと尻をおちつけていた。しかし二、三の来賓がとうとうたまりかねたように立ちあがり、その一人が荒田老に近づいて、