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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
」
というと、鈴田はだまって手を横にふり、ただ眼だけをぎらぎら光らした。
やがて朝倉夫人が炊事場のほうから手をふきふきやって来て、しも手の入り口から中にはいった。ほとんど同時に、朝倉先生もかみ手のほうの入り口からはいって来た。
二人は代わる代わる荒田老に上座になおってもらうようにすすめた。しかし老は、黒眼鏡を真正面に向けたまま黙々としてすわっており、鈴田は眼をぎらつかせて手を横にふるだけだった。
塾生はそれまでにまだ一名も集まっていなかった。それからおおかた五分近くもたって、やっと四十数名のものが顔をそろえたが、しかしみんなしも座のほうに窮屈そうにかたまって、じろじろと荒田老のほうを見ているだけである。
「いやにちぢこまっているね。そんなふうに一ところにかたまらないで、もっとのんびり室をつかったらどうだ。」
床の間を背にしてすわっていた朝倉先生が笑いながら言った。夫人は先生の右がわに少し斜め向きにすわっていたが、しきりに塾生たちを手招きした。
塾生たちは、それでやっと立ちあがり、前のほうに進んで来るには来たが、しかし、今度おちついた時には、講演でもきく時のように、みんな正面を向いてすわっていた。