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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

私からは何も話してはいませんけれど、あれっきり荒田さんの顔が見えないので、何かあると思っているんでしょう。はっはっはっ。……ええ。……ええ。……ちょっとむきになるところがありますが、ご心配になるほどのこともありますまい。……ええ、むろん私からも十分注意はしておきます。……はい、では、お待ちしています。」

電話がすむと、次郎は、すぐ自分から塾長室にはいって行って、たずねた。

「田沼先生は何かおさしつかえではありませんか。」

「いいや、まもなくお見えになるだろう。」

朝倉先生は、何でもないように答えたあと、次郎の顔を見て微笑しながら、

「今日は、変わった来賓が見えるらしいよ。」

「荒田さん……じゃありませんか。」

「荒田さんもだが、陸軍省からだれか見えるらしい。」

次郎は、はっとしたように眼を見張り、しばらくおしだまって突っ立っていたが、

「田沼先生から案内されたんですか。」

と、いかにも腑におちないというような顔をしてたずねた。

「いや、そうではないらしい。荒田さんから、今朝急に、そんな電話が田沼先生のほうにかかって来たらしいんだ。」

次郎はまただまりこんだ。朝倉先生は、わざと次郎から眼をそらしながら、