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しょうごのさつじん
正午の殺人
「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页
そう考えなければならない。
ところが、ピストルで自殺するには一方の手に必ずピストルを使わなければならない。してみればバスタオルを押えていたのは片手でなければならないが、これから自殺しようという時に、ダルマのカッコウのようにバスタオルを羽織って片手で押えながらヒキガネをひくというのは、どうも変だ。
長々神経衰弱の者が突然フラフラ死を思い立って半ば喪失状態でヒキガネをひいたとすればそんな取り乱した死に方もするかも知れぬが、唐手の稽古を小一時間もやってシャワーをものの十分間も浴びた人間がその直後にやることだとは考えられない。バスタオルを羽織る気持があるなら服をつけるぐらいのタシナミがありそうなものだ。それとも、突然自殺の必要が起ったのであろうか。
服をつけるヒマもない突然の必要というものは、自殺の場合よりも他殺の場合により多いことを想定しなければならない。しかし、これとても他殺の決定的な理由になるわけではなかった。
より以上にツジツマが合わないことは、神田が久子の来訪を待ちかねていたこと。その神田が久子を隣室に待たせておいて顔も見せずに自殺するとは何事であろうか。