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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

と巨勢博士はキゲンうるわしく文作を迎えた。

「まア、かけたまえ。君の来訪に備えて東京の全紙から事件のスクラップをとっておいたが、云い合わしたように報道に欠けてるところがあるね。特に君の新聞がひどいや。君の証言がよほど確実だと思いこんでるらしいな」

「当り前じゃないか、この目で実地に見たことだもの」

文作が凄い見幕を見せたから巨勢博士はさからわなかった。

「どの新聞にも欠けているのは、君が神田家へ到着するまでの出来事に関する調査だね」

「オレの到着前のことは無用さ。オレが立去る瞬間まで神田兵太郎氏は生きていたのだから」

「イヤ、イヤ。彼の生死にかかわらず、神田家に異常が起ってからのことは漏れなく調査されなければならない」

「異常とは?」

「たとえばラジオ。そのまた先には女中への手紙。そのまた先には神田氏から久子さんへの電話。それは事件の前日午後二時だから、すくなくとも、その時刻までさかのぼって、それ以後の各人の動勢をメンミツに調査しなければならないのさ」

「ずいぶんヒマな探偵だな」

「書生の木曾が当日どこへ買いだしにでかけたかそのアリバイの裏づけ調査を行ってる新聞も一紙しか見当らないぜ。