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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

ピストルで右のコメカミから射抜かれている。ピストルは右の手もとに落ちていた。すでに体温はなかったのである。

当局の取調べに、久子は答えた。

「私が居間にいる間、隣の寝室に特別の物音は起らなかったように思います」

「ズッと部屋を動かなかったのですね」

「いいえ、二度部屋をでました」

「なぜ?」

「電話が鳴ったからです。どなたもお出にならないので、私がでてみましたが、時間がたったせいですか、私がでた時には切れていました」

「いつごろですか」

「私が来て間もなく、十二時五分か十分ごろかと思います」

「そのとき邸内に誰もいませんでしたか」

「どなたの姿も見かけませんでした」

「何分ぐらい部屋をはなれていたのですか」

「ちょッとの間です。電話機をガチャ/\やってみて、切れてるのが分るまでの時間だけです」

「そのときピストルの音をききませんでしたか」

「気がつきませんでした。ラジオが鳴っていましたので、きこえなかったのかも知れません」

「ラジオのスイッチを入れたのはあなたですか」

「いいえ。私が来たときから鳴っていました」

そのラジオは神田自身がスイッチをひねったのである。唐手の立廻りの練習をはじめる時にひねったものだそうである。