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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

森木には、此の突然の子爵の振舞は一寸解し難かったそうだが、ともかくやるというものなので、礼を云ってその金をもらったのだ。

『もうよし、用はないから行ってねたまえ』

と云われて、彼はめんくらったまま、おじぎをしてドアを開けて外に出た。彼が、

『おやすみなさい』

と云って去ろうとする刹那、ぶすっというような異様な音が室内からきこえた。最前から子爵のようすが少しおかしいと思っていた彼は、いきなり今閉めたドアを又あけてとび込んで見ると、子爵は、ベッドの中にねたままピストルで自分の頭を射って即死をとげている。

此のピストルはさきの会話の間は、子爵はベッドの中にかくして居たらしく、森木はその時まで全く気がつかなかったという。

扨、ここで、森木にとって最も賢明な方法は直に此のことをオフィスに行って皆に告げる事だったのだ。君も無論そう思うだろう。然るに何故彼がその挙に出なかったか。

一言で云えば金の誘惑だったのだね。

無論彼もすぐオフィスにかけつけようと思ったそうだ。然し手の中に握りしめて居る大金を見た時、ふとその結果を考えたのだ。成程子爵の自殺は認められるだろう。