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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

そうして彼が所持して居た五百円の金及び借金の穴うめに使った金は、子爵の自殺の直前、子爵自ら森木に与えたものなのだ。

一体、子爵はMホテルにはじめて泊ったわけではない。既に数回来泊して居て森木国松とは大分面識がある。それ所か相当可愛がられてさえ居たらしい。君も見たように、被告はまだ二十四歳でわりにきれいな顔をしているし一寸気も利いて居るところから独身子爵の身のまわりの世話をするのは大分慣れていたらしく思われる。

十月一日の夜、子爵は一人でやって来て、一〇三号室に泊った。その当時は森木の見たところでも少しも子爵の様子に変ったところはなかったそうだ。すると二日の夜十二時頃に突然、子爵の室から呼りんが鳴った。森木はいそいで子爵の室に行くと丁度子爵はベッドにはいって煙草をすって居たそうだが、彼の顔を見ると、突然、

『お前にもいろいろ世話になったが、俺は今度遠い所に行くから、之をお前にやっておく。黙ってとっておいてくれ』

と云いながら、いきなり札束をつき出したそうだ。森木が驚いていると、子爵はだしぬけに、彼の左手をとって掌に札をつかませると同時に其の手をぎゅっと握ったのだ。