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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

はじめの考えを忘れて、今の清川の言葉の不自然さにも気附きながら、衣川は俄に話をつづけた。

「いや全く、それは君ばかりではない。世人が等しくその真相を知ろうとして居るところだろう。無論僕は子爵が自殺したものと信じて居る。少くも森木国松が殺人者ではないと思っている。

然し見給え、検事は立派に彼を強盗殺人犯人として起訴した。藤山検事は僕は私交上よく知って居るがめったに軽卒なことをする男ではない。予審判事も之を強盗殺人被告事件として、公判に移して居るのだ」

「森木は検事の前で全部自白して居るというじゃありませんか」

「まあ待ち給え。君がそんなに熱心ならば、僕が改めてあの事件を詳しくここでくり返して見よう。

あれは丁度去年の秋、十月初めの出来事だった。あの月のはじめ、僕は事件の用があって約十日間程関西に行って居たが、その留守十月の三日、小田原に近いM温泉場で起った出来事なのだ。無論君も御承知の通り、M温泉場のMホテルの第一〇三号室で、その前々夜即ち十月一日の夜から滞在して居た松村子爵が、死体となって発見されたわけなのだ。

当時詳細に伝えられた事だから君も知って居るだろうけれども、松村子爵は若い時から外交官生活をして当時四十二歳になるまで全くの独身だった。