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せいぎ
正義
浜尾 四郎
「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页
一方子爵がどの位の金子をもって旅に出たかは不明であるけれども、発見された時には弗入の中に二十円たらずの金があったばかりだった。
君は無論気がついて居るだろうけれども、大体森木が子爵の死体を発見するまでの順序というものが甚だおかしい。客が呼んだのならいざ知らず、ドアの外から叩いて許可がなければ、ボーイが室内に入るべきものではない。殊にMホテルのようなところではそういう事にボーイは十分訓練されて居る筈なのだ。それに終日客が出て来なければともかくも午前十時頃までに客が朝食に出て来ないからと云ってむやみにノックすべきものではない。第一何の用があって彼が一〇三号室の戸をたたいたか。彼はこの点をはっきり答えられなかった。警察でひどくつっこまれてから彼は一時供述をかえて前を通ったら偶然戸が開いて居て中からうなり声がきこえた、などという出たらめを云い出した。おまけに例の紙幣に就いてはかれこれあいまいな事を云うばかりで一こうにらちがあかない。すったもんだをした揚句、警察では彼が犯人にちがいなしと見て検事局に送る事になった。
これは無論無理のない話で、僕はこの際、一応彼を怪しむという事はよく了解出来る。