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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

そこから鮮血が少しくこぼれているだけで、全くその他に変ったところはない。検証の結果、子爵は前夜の十二時前後にピストルの一弾によって即死したものである、という事が明かとなった。

扨いよいよ問題は、子爵の死は自殺か他殺か、又は過失死かという事である。姿態のようすから見て過失死であるという事は考えられない。最も自然な見方は無論自殺というテオリーを立てる事である。

警察でもはじめは一応そう考えたらしいけれども、まず第一に自殺の動機らしきものが発見されない。無論遺書の如きものは全然見出されなかった。第二に子爵は左利きである。という事が判った。左利きの男が、死ぬ時に右手でピストルを打ったと、いう事になった。第三に、さきに述べた通り、第一の発見者であるボーイ森木国松の供述が頗る怪しくなって来たのである。

そこで森木国松を取調べると、そこに甚だ不利益な事実が曝露して来た。即ち彼は、当時同所の白首に身を打ち込んで借金で全く首もまわらなかったところが、十月四日になって諸所方々の借金を約半分程きれいに払ったのみならず、彼の室から約五百円の紙幣が発見されたにも不拘、その出所を明かにする事が出来なかった。