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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
国木田独歩『武蔵野』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れえぬ人々、置土産、おとずれ、河霧、郊外、小春、鹿狩り、詩想、初恋、初孫、星、まぼろし、遺言、わかれ。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 页
お絹とお常は吉次の去った後そこそこに陸へ上がり体をふきながら
『お常さん、これからちょいと吉さんの宅をのぞいて見ようよ、様子が変だからわたしは気になる。』
『明日朝早くにおしよ、お詣りを済ましてすぐまわって見ようよ。あんまり遅くなると叔父さんに悪いから。』
『そうね』とお絹もしいては勧めかね道々二人は肩をすり寄せ小声に節を合わして歌いながら帰りぬ。
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若い者のにわかに消えてなくなる、このごろはその幾人というを知らず大概は軍夫と定まりおれば、吉次もその一人ぞと怪しむ者なく三角餅の茶店のうわさも七十五日経たぬ間に吉次の名さえ消えてなくなりぬ。お絹お常のまめまめしき働きぶり、幸衛門の発句と塩、神主の忰が新聞の取り次ぎ、別に変わりなく夏過ぎ秋逝きて冬も来にけり。身を切るような風吹きて霙降る夜の、まだ宵ながら餅屋ではいつもよりも早く閉めて、幸衛門は酒一口飲めぬ身の慰藉なく堅い男ゆえ炬燵へ潜って寝そべるほどの楽もせず火鉢を控えて厳然と座り、煙草を吹かしながらしきりに首をひねるは句を案ずるなりけり。