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わすれえぬひとびと

武蔵野

国木田 独歩

国木田独歩『武蔵野』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れえぬ人々、置土産、おとずれ、河霧、郊外、小春、鹿狩り、詩想、初恋、初孫、星、まぼろし、遺言、わかれ。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 页

青空文庫

二人とも顔を赤くして鼻の先を光らしている。そばの膳の上には煖陶が三本乗っていて、杯には酒が残っている。二人とも心地よさそうに体をくつろげて、あぐらをかいて、火鉢を中にして煙草を吹かしている、六番の客は袍巻の袖から白い腕を臂まで出して巻煙草の灰を落としては、喫っている。二人の話しぶりはきわめて卒直であるものの今宵初めてこの宿舎で出合って、何かの口緒から、二口三口襖越しの話があって、あまりのさびしさに六番の客から押しかけて来て、名刺の交換が済むや、酒を命じ、談話に実が入って来るや、いつしか丁寧な言葉とぞんざいな言葉とを半混ぜに使うようになったものに違いない。

七番の客の名刺には大津弁二郎とある、別に何の肩書きもない。六番の客の名刺には秋山松之助とあって、これも肩書きがない。

大津とはすなわち日が暮れて着いた洋服の男である。やせ形な、すらりとして色の白いところは相手の秋山とはまるで違っている。秋山は二十五か六という年輩で、丸く肥えて赤ら顔で、目元に愛嬌があって、いつもにこにこしているらしい。大津は無名の文学者で、秋山は無名の画家で不思議にも同種類の青年がこの田舎の旅宿で落ち合ったのであった。