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むさしの

武蔵野

山田 美妙

「読売新聞」1887(明治20)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,798 字 · 26 页

青空文庫

馬じゃ……敵じゃ……敵の馬じゃ」「敵は多勢じゃ、世良田どの」「味方は無勢じゃ、秩父どの」「さても……」「思わぬ……」敵はまぢかく近寄ッた。

「動くな、落武者。知らぬか、新田義興は昨日矢口で殺されてじゃ」

「なに、二の君が」

「今さら知ッたか、覚悟せよ」

跡は降ッた、剣の雨が。草は貰ッた、赤絵具を。淋しそうに生まれ出る新月の影。くやしそうに吹く野の夕風。

中

「山里は冬ぞさみしさまさりける、人目も草もかれぬと思へば」秋の山里とてその通り、宵ながら凄いほどに淋しい。衣服を剥がれたので痩肱に瘤を立てている柿の梢には冷笑い顔の月が掛かり、青白く冴えわたッた地面には小枝の影が破隙を作る。はるかに狼が凄味の遠吠えを打ち込むと谷間の山彦がすかさずそれを送り返し,望むかぎりは狭霧が朦朧と立ち込めてほんの特許に木下闇から照射の影を惜しそうに泄らし、そして山気は山颪の合方となッて意地わるく人の肌を噛んでいる。さみしさ凄さはこればかりでもなくて、曲りくねッたさも悪徒らしい古木の洞穴には梟があの怖らしい両眼で月を睨みながら宿鳥を引き裂いて生血をぽたぽた……

崖下にある一構えの第宅は郷士の住処と見え、よほど古びてはいるが、骨太く粧飾少く、夕顔の干物を衣物とした小柴垣がその周囲を取り巻いている。