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さいげつ

歳月

宮本 百合子

「お茶の水」第60号、お茶の水女子高等師範学校附属高等女学校校友会誌、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,584 字 · 6 页

青空文庫

治安維持法が非人間な悪法であるということを理解しなかった人たちにとっては、自分の学校の卒業生が女のくせに、そういう法律にとがめられて入獄するというようなことは、恥辱のことと思われたのだろう。いまは、それらの人たちも「愛情は降る星の如く」に対して、けがらわしい死刑囚の書簡集だとは云うまいけれども。

いくつかのこういう事情がたたまって、わたしは学校と疎遠になっていたのだった。それを別のひろい表現で云えば、旧い日本の上流中流の生活を支配していた常識の狭さや無智にされているままの偏見との間に、そんなに永年の摩擦があったのであった。

きょう、こういう文章をかいていて、わたしは、常識の内容のうつりかわりについて、愕くほどの心持がある。いま、わたしの書いたものが学校の雑誌にのるのも、きょうの常識がそれをうけ入れているからである。かつて卒業生一同の穢点と考えられたのも、その非条理そのものが常識の一部分であったからこそである。一人一人の罪がどこにあるだろう。しかし、やはりわたしたち一人一人に責任はある。なぜなら、社会の歴史の進歩は、わたしたちめいめいの前進の総和であるし、常識の内容が新しい命をうけて生きてゆくのも、どこかで、誰かがその生活の現実で常識の古びた垣をひろく新しく結びなおそうと努力しているからである。