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しね!

死ね!

豊島 与志雄

「文芸」1934(昭和9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,979 字 · 18 页

青空文庫

機会のくいちがいといったようなものがあるのだろう。

ところが、或る晩、彼に不思議なところで出逢った。

私はいくら忙しいといっても、毎日朝から晩まで働きづめでいるわけではない。そんなことは人間として出来るものではない。たまには肉体的息ぬき、精神的保養も、必要である。そんな意味で、ばかげた酒を飲んで、すっかり酔った。風がなく、なま暖く、空はぼんやり霞んでいそうな気配。外を歩いていると、家の中にはいるのが息苦しく思われるような晩だ。こんな時には、病院ではきっと誰かが死ぬ。

薄暗い横町の角のところに、下水工事の掘り返されてるのがあって、街路の片側に、コンクリートで出来てる大きな土管が転っていた。ばかに大きくて丸い。私はそれに気を惹かれて、ステッキの先でつついていった。ただコツコツと、岩石をつきあてるようなものだ。感心してなおコツコツやっていると、尖端の穴から、ぬっと男が出て来た。それが、彼だった。暖いのに、まだ冬のマントを着ていた。その長髪はばさばさして艶がなく、蒼ざめた頬へ疲労性の熱が浮いていて、瞳が据っていた。彼は私を見てとると、手に持っていた帽子を土管の上に投りつけた。