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しまでをかたる

死までを語る

直木 三十五

「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页

青空文庫

それに、須磨子が、美人で、相当の家の女だから、ちゃんとした姿をしているし、何処から見ても、生活の為に、授業料が納められないとは見えなかったにちがいない。何んしろ、この須磨子は、ハガキ一枚買って来いというと、必ず十枚買ってくる。

「一枚だよ」

「ハガキ一枚なんて買えますか」

これが、その内、高利貸しの前で、煙草を喫いながら

「お金なんか、廻り持よ」

と、云うようになるのだから、話もいろいろとおもしろいものがある。

ハガキ一枚が恥かしくて買えぬ位の女だから、友人がくると、ビール、酒、肴、どんどんもてなす。いよいよもって、貧乏人ではない。金が無くなると、私に内証で例の債券を処分していたらしい。私は、生活上に経験があるから

(二十五円で、よくやれるな)

と、考えていたが、月々十円位ずつは、債券を食っていたのであろう。

この時分、私の住んでいた家は、今もあるが、私のいた時分には、隣りの大家、村田という大工さんと、二軒きりであった。

場所は、早大グラウンドの後方で、家賃四円八十銭。八、六、二の三間であった。

二十八

何うも、死にそうにない――これは、容易ならぬ事である。