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しけんといきなわ

死剣と生縄

江見 水蔭

「講談倶楽部」1925(大正14)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,104 字 · 31 页

青空文庫

と小虎まで蒼く成った。

「藻切りに心奪われて、此方には気が着かなんだが、何時の間に、何者が」と竜次郎憤激しても、如何しようも無いので有った。

遠寺の鐘さえ鳴り出した。一瞬き毎に四辺は暗く成るのであった。冷たい風は二人の肌に迫るので有った。

「兎に角、人家のある方へ廻って、其方の濡れた着物も乾そう、拙者の紛失物も人手を加えて探して見よう。誰か盗人の姿を見た者が有るかも知れぬで」と竜次郎は先に、立木台下の方へと蘆原を進んだ。小虎も後から附いて来た。

手甲脚半の他は裸の竜次郎、下帯に小刀をさした風は、醜態此上も有らぬ。奇禍とは云いながら、何んという有様。皆是剣道の師の命令に叛き、女侠客の為に抑留されて、心ならずも堕落していた身から出た錆。斯う成るのも自業自得と、悔悟の念が犇々と迫った。

台下の農家、取着きのに先ず入ったが、夜に入っては旅の人に取合わぬ此土地の淀と云い張って、閾から内へは入れなかった。事情を訴えても聴くので無かった。

次の一軒、其所は大急ぎで戸を締めて、呼べど叩けど答えも無かった。其他三四軒を訪れたが、悉く断わられた。

途方に暮れて竜次郎と小虎とは、再び元の渡し口まで帰った。