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しけんといきなわ
死剣と生縄
江見 水蔭
「講談倶楽部」1925(大正14)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,104 字 · 31 页
教える為にはお鉄が捕縄を捌いて、竜次郎を縛りもした。又お鉄が竜次郎に縛られもした。
「縄抜けの法は泥棒ばかりでは有りません。御武家でも覚えて置いて好いと思います。敵に俘虜に成った時に、役に立ちますからね」
肥満したお鉄の豊かな肉に喰入る本縄の緊縛も、身を悶えさせて、肩に風を切り、下腹に波を打たせている間に、見事に抜けて自由の体に成るので有った。竜次郎は真底から驚嘆せずにはいられなかった。
斯うしている間に竜次郎は、始終無形の縄に縛られて、緊く繋がれたような気持がして、一歩も外へ踏み出せぬので有った。又お鉄が殆ど附切りで、近き大杉明神へも参詣させぬ。お鉄が無拠外出する時には、乾漢をして見張らせるので有った。
其代り痒い処へ手の届かずという事なく、有らゆる優待はするので有った。
「生縄一家の用心棒、磯貝先生は、話に今も遺っている笹川繁蔵の処の平手酒造よりも豪い方だ」
持上げられるだけ持上げられても、其実入牢させられたも同様で有った。
「斯うしていては、秋岡先生に相済まぬ」
竜次郎は全部魂が腐敗し切ってもいなかった。良心の呵責に耐え切れず、漸く見出した隙間を見て、お鉄の家の裏庭から、崕を雑草に縋りながら、谷地の稲田の畦路にと降りた。