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しけんといきなわ

死剣と生縄

江見 水蔭

「講談倶楽部」1925(大正14)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,104 字 · 31 页

青空文庫

「草深い田舎に飽いてで御座んすか。いや、私という者に愛想が尽きて、お逃げ出しで御座んすかよ」

「決して左様な訳ではない。行って見て、安心したら直ぐ帰る。実は毎夜の夢見、どうも心配で心配で耐え難いで」

「夢見?」

「夢は五臓のつかれとやら。そう云って了えばそれ迄だが、余りに一つ夢を何度も何度も繰返すので気に懸って相成らぬ。それは恩師秋岡陣風斎先生が瀕死の重態。されば先生には誰一人身寄りが無い。看病する者が居らぬ筈。孤独の御生活、殊に偏屈という御性癖で、弟子というても斯くいう竜次郎より他には持たれぬのだ。それが一師一弟の特別の稽古、その八方巻雲の秘伝をお授け下さるという事は、いつぞや姉御にも話して置いた」

「それは確かに聴きました」

「万一先生、御他界の間に合わぬ時は、折角の秘伝は消滅して、残念ながら此世には遺り申さぬ。それが如何にも惜しゅうて成らぬ。や、それは又それとしても、義理人情の薄う成り過ぎた此頃、恩師を唯一人のたれ死も同然にさせたと有っては、磯貝竜次郎の一分が立たぬ。師弟の間柄が宛如商売取引のように成ったのを、悉く不満に存じ居る折柄、是非先生の御看病を……」