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しかばねをくうおとこ

死屍を食う男

葉山 嘉樹

「新青年」1927(昭和2)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,482 字 · 16 页

青空文庫

安岡は這うようにして進んだ。彼の眼をもしその時だれかが見たなら、その人はきっと飛び上がって叫んだであろう。それほど彼は熱に浮かされたような、いわば潜水服の頭についているのと同じ眼をしていた。

そして、その眼は恐るべき情景を見た。

それは筆紙に表わし得ない種類のものであった。

深谷は、一週間前に溺死したセコチャンの新仏の廓内にいた!

彼のどこにそんな力があったのであろう。野球のチャンが二人でようやく載っけることができた、仮の墓石を、深谷のヒョロヒョロな手が軽々と持ち上げた。

その石をそばへ取り除けると、彼は垣根の生け垣の間から、鍬と鋸とを取り出した。

鍬は音を立てないように、しかしめまぐるしく、まだ固まり切らない墓土を撥ね返した。

安岡の空な眼はこれを見ていた。彼はいつの間にか陸から切り離された、流氷の上にいるように感じた。

深谷は何をするのだろう? そんなにセコチャンと親密ではなかった。同性愛などとは思いもよらない仲であった。ほとんど一度も口さえ利いたことはなかった!

軟らかい墓土はそばに高く撥ねられた。そして棺の上はだんだん低くなった。深谷の腰から下は土の陰に隠れた。