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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

「この女はね。よく捨てられる女なんですよ。面白いでしょう」

今度はかの女の方が好奇の目を瞠って娘を観察していると、娘はむす子に訊いた。

「あなた、ママンに何てあたしを紹介したのです?」

「よく捨てられる女って」

それを聞くと娘は、やや興を覚えた張合いのある顔になっていった。

「それは、まだ真実を語っていない。もう一度、ママンに紹介しなさい。よく男を捨てる女って」

そして、彼女はうれしそうに笑った。神秘的に悧巧そうな影を、額から下にヴェールのように持っているこの若い娘が、そうやって笑うとき、口の中に未だ発育しない小さい歯が二三枚覗かれた。その歯はもう永遠に発育しないらしく、小さいままでひねこびた感じを与えた。

むす子は笑いながら娘の抗議を母親に取次いでこういった。

「こんなこといってますがね。この女は決して一ぺんでも自分から男を捨てた事はないんですよ。惚れた男はみんなきっと事情が出来て巴里から引上げなくちゃならなくなるんです」

「どうしてなんだろう」

「どうしてですかね」

むす子は、ただしばしば男に訣れねばならなくなる運命の女であるというところに、あっさり興味を持っているようだった。