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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

ジュジュと仲間呼びされるその娘は、だんだんむす子の母に興味を感じて来た。娘は持前のフランス語に、やや通用出来る英語を混えて、かの女と直接話すようになった。娘は相当知識的で、かの女に日本の女性の事を訊くにつけても、「ゲイシャ、それからヨシハラ、そんなもの以外にちゃんとした女がたくさんあるんでしょう」といったり、「日本の女は形式的には男から冷淡にされるけれども、内容的にはたいへん愛されるんだそうですね」といったりした。

娘は「猫のお湯屋」の絵草紙を見たことがあって、「あれがもし、日本の女たちの入る風呂の習慣としたら、同性たちと一緒に話したり慰め合ったりしながら湯に入れて、こんな便利な風呂の入り方はない」と羨ましそうにいった。

時計は午前二時を過ぎた。攪き廻されて濃くなった部屋の空気は、サフランの花を踏み躪ったような一種の甘い妖しい匂いに充ち、肉体を気だるくさす代りに精神をしばしば不安に突き抜くほど鋭く閃かせた。人と人との言葉は警句ばかりとなり、それも談話としてはほんの形式だけで、意味は身振りや表情でとっくの先に通じてしまう。廻転ドアの客の出入りも少くなり、その代り、詰めに詰め込んだという座席の客は、いずれもこの悪魔的の感興の時間に殉ずる一種の覚悟と横着とを唇の辺にたたえ、その気分の影響は、広間全体をどっしり