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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

ちょっと広間の周囲の空気からは、ここはエアポケットに陥ったように感ぜられつつある。数分間のうちにかの女は、この群の人々とむす子との間に対蹠し、或は交渉している無形な電気を感じ取った。

かの女の隣にいる小ざっぱりした芸術写真師は、見かけだけ快く、内容はプーアなので、むす子に案外嘗められているのかも知れない。牛のような青年は、巨獣が小さい疵にも悩み易いように、常に彼もどろんとした憂鬱に陥っている。それでむす子は、何か憐愍のような魅力をこの男に感ずるらしい――。

むす子は男性に対しては感受性がこまかく神経質なのに、女性に対しては割り合いに大ざっぱで、圧倒的な指揮権を持っていた。

女たちは、何かいうにも、むす子に対して伏目になり、半分は言訳じみた声音で物を云った。それに対してむす子は、何等情を仮さないと云った野太い語調で答えた。それは答えるというよりも、裁く態度だ。裁判官の裁きの態度よりも、サルタンの熱烈で叱責的な裁き方だ。そういえば、かの女は思い起したことがある。日本にいる時から、この子供は女性から一種の怯えをもって見られていた。かの女の周囲に往来する夫人や娘たちは云った。