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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
すると規矩男はぽかんとした気を抜いた顔をして、鼻を詰め口を開けて息をした。
「怒るならあやまりますよ。どうも自分でも今日は気分の調子が取りにくい気がします」規矩男は駄々児のように頭を振った。
「むす子に女性が出来てるかどうかまだ知らないけれど、私むす子の好きそうな女性を道ででも何処ででも見つけるとみんな欲しくなっちまうの。だけどそのなかに女特有の媒介性が混っているんじゃないかと思って、時々いやあな気もするのよ」
かの女はむす子ばかりにこだわってるようで規矩男に少し気の毒になり、わざと終りを卑下して云った。
畑のなりもので見えなかったが、近寄ると新しく掘った用水があって、欄干のない橋がかかっていた。水はきれいで薄曇りの空を逆に映して居り、堀の縁には桜の若木が並木に植付けてあって、青年団の名で注意書きの高札が立っていた。
「みんな几帳面だなあ」規矩男は女性の問題はもう振り落したように独言を云った。
水を見て、桜木の並木を見て、高札を読んで、空を仰いでから、ちょっと後のかの女を振り返って、規矩男は更に導くように右手の叢の間の小径へ入った。そこにはかの女が随いて行くのを躊躇した位、藪枯しの蔦が葡い廻っていた。