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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
規矩男は小戻りして、かの女から預っているパラソルで残忍に草の蔓を薙ぎ破り、ぐんぐん先へ進んだ。かの女はあとを通って行った。
雑木林の傾斜面を削り取って、近頃拓いたらしい赤土の道が前方に展開された。午後三時頃と覚える薄日が急にさして、あたりを真鍮色に明るくさせ、それが二人をどこの山路を踏み行くか判らないような縹緲とした気持にさせた。
「まあこんなところがあるの」かの女は閃く感覚を「猫の瞳」だの「甘苦い光の澱み」だのと手早くノートしていると、規矩男は浮き浮きした声で云った。
「何? インスピレーション採っているの? 歌のですか」
「ふふふふ、歌のよ」
かの女はこのプラスフォーアを着たナポレオン型の美青年と歌の話をするのもどうかと無関心な顔をして、今日の規矩男の気勢を避けるため、さっきから持ち出していた小ノートに尚自分勝手な目前の印象を書き続けて行った。
「僕はあなたの歌を一昨夜母から見せられましたよ」
「あなたお母さんに私の事話しましたか」
「話しました」
「どうして知り合いになったって?」
「そんなこと気にかけないで下さい。僕だって文学青年だったこともあるもの、何も不思議がりはしませんよ。