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どくぐさ

毒草

江戸川 乱歩

「探偵文藝」奎運社、1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,692 字 · 10 页

青空文庫

何の必要もないのに、階段を駈けおりて、二三段も踏みはずし、馬鹿馬鹿しく騒がしい物音を立てて見たり、そそくさと下駄を引かけて、表口の格子を開けて見たり、又しめて見たり、そんなことを繰り返したあとで、結局もう一度丘の下まで行って見ないではいられなくなったのである。

私は、もう一間先は見えない程の、夕闇の中を、誰か見ていはしないかと、身のすくむ気持で、うしろの方を振向き振向き、例の丘の所までたどりついた。灰色のもやの中に、一尺の小川の黒い水が、チロチロと流れていた。一間ばかり向うの草の中で、何の虫だか、妙にさえた音で鳴きしきっていた。私は、堅くなってあの植物を探した。それは、あたりの低い雑草の中に、化物の様に太い茎と、厚ぼったい丸い葉を、ヌッとつき出しているので、すぐに分ったが、見ると、その一本の茎が、半ばからポッキリ折り取られて、まるで片腕なくした不具者の様に、変に淋しい姿をしているのだ。

私は、殆ど暮れ切った闇の中で、うそ寒く立ちつくしていた。醜い顔に、いつも狂者の様に髪の毛を振り乱している、あの四十女の女房が、さっき私達の立去ったあとで、恐しい決心の為に頬を引つらせながら、ノソノソと丘を下り、四つ這いになってその植物を折り取っている有様が、気味悪く私の目に浮んで来る。