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どくぐさ
毒草
江戸川 乱歩
「探偵文藝」奎運社、1926(大正15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,692 字 · 10 页
それは、何という滑稽な、然しながら又、何という厳粛な、一つの光景であったろう。私は余りの怖さに、ワッと叫んで、いきなり走り出したい様な気持になったことである。
そして、それから数日のちのこと、その間私は、可哀相な裏の女房のことは、気にかかりながら強いて忘れる様にしていた。家人の噂話などもなるべく聞くまいとした。私は朝から家を出ては、友達の所を遊び廻ったり、芝居を見たり、寄席に這入ったり、なるべく外で夜を更していた。だが、到頭ある日、私は家の横の細い路地で、ヒョッコリと、裏の女房に出逢って了ったのである。
彼女は私を見ると、幾分恥し相にニヤニヤ笑いながら、その笑顔が私には何と物凄く見えたことであろう、挨拶をした。乱れた髪の毛の中に、病後の様にやつれた、血の気の失せた彼女の顔が、すさまじく覗いていた。私の目は、見まいとすればする程、彼女の帯の辺に行った。そして、そこには、予期していたことながら、然し矢張り私をハッとさせないでは置かなかった所の、餓えた痩せ犬の様に、二つに折れはしないかと思われる程の、ペチャンコのお腹があったのである。
そして、この話にはもう少し続きがあるのだ。