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どくぐさ

毒草

江戸川 乱歩

「探偵文藝」奎運社、1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,692 字 · 10 页

青空文庫

それから又一月ばかりたったある日のこと、私はふと通りすがりに、一間の中で私の祖母と女中とが妙な話しをしているのを、小耳にはさんだのである。

「流れ月なんだね。きっと」これは祖母の声である。

「まあ、御隠居様が、ほほほほほ……」無論彼女の笑声はこんなによくはないのだが、これは女中の声である。

「だってお前、お前がそういったじゃないか。まず郵便屋のお上さん」そう云って祖母は指をくるらしいのだ。「それから北村のお兼さん、それから駄菓子屋の、何といったっけね、そうそう、お類さん。そらね、この一町内で三人もあったじゃないか。だから、流れ月なんだよ、今月は」

それを聞いた私の心臓はどんなに軽くなったことであろう。一刹那、この世の中が、まるで違った変てこなものに思われた。

「これが人生というものであったか」何のことだか分らない、そんな言葉が私の頭に浮んだ。

私は、その足で玄関を下りると、もう一度例の丘の所へ行って見ないではいられなかった。

その日もよく晴れた、小春日和であった。奥底の知れない青空を、何鳥であろう、伸々と円を描いて飛んでいた。私は少しもまごつかずに例の植物を探し出すことが出来た。