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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页

青空文庫

「割にいいでしょ」

と云った。

「まるでがたがたなんですものねこの家ったら。――せめて自分達のいる処でも心持よくしとかなけりゃ――そりゃそうと、私ったらまだ自分の名も云わないで」

芦沢の細君は、姉らしく笑った。

「あなたの名は、下できいたんだけど……」

「房、どうぞよろしく」

「ああそうそう、お房さん、いい名ね、私は滑稽でしょ、森律子と同じなんですよ、名ばかり同じだって、こんなおたふくじゃ何にもならないわね」

律は、勤め先のカフェーが今建て増しで休業中なこと、そこにもう三年勤め、一番の古株になったことなど話した。

「いくら古参になったって大したこともないんですよ、でもやめられない訳があるんでね……もう一年――うちがM大学を出るまで――あなたは? お志野さんと御一緒だったんですか?」

「ええ、国の補習科の時分――」

「へえ、じゃあ同じ局じゃあないんですか」

房は、簡単に自分の境遇を説明した。

「まあ、私はずっと御一緒かと思ってた――そうですか、じゃあ、余りあのひとのこともお知んなさらないわけですわね――今じゃ元気になったけど、来たばかりの時ったら、そりゃお話になりませんでしたよ」