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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页

青空文庫

志野は琴をひかえて、室の真中に坐っている。

「あの――お房さん、さっき話した――この人、大垣さんての。もと局にやっぱり勤めてたんだけど、今会社なの」

「やあどうぞよろしく」

大垣は、重ねていた脚だけ下し、窓枠にかけたまま挨拶した。

「お噂はかねがねきいてました」

志野は、房に訊いた。

「どうだった須田さん面白かって? 丁度あなたとすれ違いよ、大垣さん来たの。ね、そうね」

「ああ。――丁度お出かけだってんでがっかりしていたところです。――どうです近頃は――面白い活動でも御覧でしたか」

志野が引受けて答えた。

「ちっとも行きゃしないわ」

「――じゃあいつか行きましょうか、みんなで。――今週何があるかしら――バレンチノ――荒鷲なんての素敵だったな」

志野が、自分の宝を自慢するように吹聴した。

「純吉さんたら、まるで活動通なのよ、外国俳優の名なんぞすっかり暗記してる位だわ。ね、そうでしょ」

大垣は少し得意そうに、

「いやあ」

と笑った。

「そんなじゃあないさ」

やがて、志野が訊いた。

「ね、お房さん、大垣さん、いくつに見える?」

「さあ――大人ぶっていらっしゃるわね、でもそんなにお志野さんと違わないんでしょう」