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こおりぐらのにかい
氷蔵の二階
宮本 百合子
「女性」1926(大正15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页
――それにね、私ぜひあの人と結婚しなけりゃ困るのよ」
房は、不安を感じて、思わず志野を見た。
「ほらあの――こないだうるさく来た男ね、もと下で働いていたっていう。――若し大垣さんと一緒になれないと、私あの男と夫婦にならなけりゃならないかも知れないんですもの……」
多公(たあこう)と呼ばれた多十郎に、志野は、今大垣にきかせていた琴と、被いのメリンスの布を買って貰ったのであった。
「私、大垣さんとの方が先約だって云って頑張ってるのよ」
次に大垣の処へよって帰って来ると、志野は浮々房に囁いた。
「一寸! 純吉さんたら、あなた、活のいい果物みたいで好きだって云ってたわよ」
「まあ、いやだ」
志野は冗談とも本気ともとれる調子で警告した。
「あなた、あの人が好きにでもなったら、私絶交しちゃうわよ、よくて」
大垣も度々訪ねて来た。彼等は房のいることを忘れたように噪(はしゃ)ぐことが多かった。気がつくと、大垣は、
「やあ、失敬失敬!」
などと、謝った。
「君も一つ対手をさがし給えよ、どうも、遠慮があって、僕等が困りますよ、ハハハハ」
「本当にそうだわ。ね、あの鈴木さんなんかどうかしら」