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けっせんかわなかじま うえすぎけんしんのまき

決戦川中島 上杉謙信の巻

坂口 安吾

――越後守安吾将軍の奮戦記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,278 字 · 19 页

青空文庫

「大きな皿に山盛りバイを持って参れ」

「ハイ」

女中は莞爾と笑い、親しげに余を見返してイソイソと立った。放善坊はイマイマしげに女中の後姿を睨んでいたが、

「ウヽム。タニシを食わなくちゃア、女中にもてないのか。チェッ! 仕方がない」

その女中はPTAの顔役連とちがい、年も若くて、いくらか美人であった。放善坊は詮方なくタニシを食う方を選んだもののようである。しかし、最初のバイを食べた時、彼は血相を変えて叫んだ。

「ウーム。うまい! たしかに、バイだ。これは海底の味覚だぞ。しかも相当の深処に育った味覚だな。まず、そうさ。三十尋の味かな」

丸薬をのみこむようにバイを呑みこみはじめたのである。余がいくつも食さぬうちに、山盛りのバイがカラになった。放善坊は息つくヒマももどかしげに女中に命じた。

「もっと大きな皿にもっと山盛りにもってこい」

「キサマ、本当にうまいのか」

「うまいですとも。見直しましたよ。あなたも相当な食通だ。海底にも海底の山川草木があるものですが、その全ての精気がこもってますな。これは少くとも七十五尋以上の深海に生育していますよ」

彼の目の色が変っていた。