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けっせんかわなかじま うえすぎけんしんのまき

決戦川中島 上杉謙信の巻

坂口 安吾

――越後守安吾将軍の奮戦記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,278 字 · 19 页

青空文庫

色慾から食慾に乗りかえたことが歴然と現れていたのである。彼は三皿目のバイも大急ぎでむさぼりくらい、女中をよんで、

「オイ。オマエのウチにイケ花をいけるような大きな皿があるだろう。その皿に、山盛り、バイをつみあげてこい」

「樽ごと持ってきてやろかね」

「なるほど。それも、いいな」

「目の色が変ってるわ」

女中は嘲笑して去ったが、卓上には置き場がないほどの大きな皿にバイを山盛り運んできた。二人はそれもことごとく平らげたが、さすがに放善坊も五皿目を所望しなかった。余もことごとく満腹であった。

放善坊は食べ終ると横臥して目をつぶり、

「知りませんでしたねえ。人生は深く、ひろい。バイを食べて、人生にバイバイ。また、よし。また、よし」

ふと見ると、彼は泣いていたのである。

余もまた強烈な心境に憑かれていた。バイとは何物だ。タニシそのものであってもかまわない。その存在が一に尊まれるのは、人に食せられるによってである。死せざればただ水中の怪物にすぎざる物も、死して人に食せられては、放善坊をも泣かしむるのである。人生の理はかくの如くに顕然たり。余もまたよく己がツトメを果して死せざれば、ただ春日山の怪物にすぎざるべし。